ひこうきの名前。

   ・・・
   「どうして船には名前があって、
     飛行機には名前がないんだろう?」
   と僕は運転手に訊ねた。
   「どうして971便とか326便とかいうだけで、
    『すずらん号』とか『ひなぎく号』とかいう
    個別の名前がついていないんだろう?」
   「きっと船に比べて数が多すぎるんですよ。
    マス・プロダクトだし」
   「そうかな? 船だって結構マス・プロダクトだし、
    数も飛行機より多いよ」
   ・・・



かの有名な、村上春樹氏『羊をめぐる冒険』の一節ですね。
この方の場合は、言葉というか、日本語の使い方がとても上手で
たとえ中身はないと判っていても、
言葉を拾う快感だけで十分という気がして、
つい読み進めてしまいます。




さて、ところが、アイルランド・ファンのみなさん(って誰だ)、
ご存知でしたか?
「エア・リンガスの機体には、それぞれ名前がついている。」



本当です。
ちゃんと、それぞれの飛行機の顔、頬骨のところに書かれています。




彼女はブリジットちゃん。




メラちゃん。




メイブちゃん。



船には女性の名前をつけるそうですが、
エア・リンガスの飛行機には、男性の名前もついています。
しかも普通に「ジェイムス」とか
「ケヴィン」とか「キアラン」とか。



確かに、どれも聖人の名前ではあるのですけど、
友だちに普通にいる名前ですから、
やはりなんとなく親近感を感じますね。




かと思えば、こちらは少し大仰。聖ローレンス・オトゥール。




ここまで来ると、少しピンポイントだなあ。
12世紀にダブリンの聖職者だった、キルデア出身の人です。




見ていてもうひとつ楽しいのは、
鼻をはさんで向かって右側に英語で、
左側には愛蘭語で、名前が書かれているところでしょうか。





正面から見るとこんな感じになります。
これはクィヴァ。かわいい。(^^)




今回日本に帰るときに私が乗った飛行機は、
カニスちゃんと言いました。





キルケニーに「聖カニス・カテドラル」という大聖堂がありますから、
そのカニスちゃんだと思います。
というか、「キルケニー」はそもそも
愛蘭語で「カニスの教会」という意味。
やっぱりかわいいですね。(^^)




上述の村上氏『羊をめぐる冒険』によれば、
名前のつけられた乗り物には、
「ちゃんと意識の交流がある」のだそうです。



次にエア・リンガスに乗る方、
よろしかったら、誰に運んでもらったのか、ぜひ見てみてください。