外国、それは遠いけれど。

3年前に島町で会って以来お友達の、
名古屋で活動しているヴィオリストのダイくんが
忙しい仕事をやりくりして、久しぶりにクレアにやってきました。



彼もフィドルを弾くのですが、
実はどっぷりクラシック畑の人で、
ここ島町で現在活躍中のヴァイオリニスト・ユキちゃんとは
「(本人たちいわく)くされ縁」と言い切るほどの旧知の仲。



ここ2年の間に、ダイくんは日本での足場を広げ、
結婚もして、着々と人生のコマを進めてきたようです。
おめでとう!




2年前に足しげく通ったという、なじみのパブに腰をかけ、
渋くてほろ苦い東クレアのチューンを、
さりげないストロークで演奏するダイくん。





一度パブに座ってしまえば、
日本との距離なんて忘れてしまいますよね。




ついでに、と言ってはなんですが、
この夜はもう1組、遠来からのお客様がいました。
アメリカから旅行で島町に来ていた、フィドラーのシェイマス。



シェイマス、という名前からしてアイルランド人だけど
彼の英語も100%アイリッシュ、というか、もろクレア訛りです。
セッションが始まってからも長いこと、
脇のテーブルでおしゃべりしながら
楽しそうに音楽を聴いていました。



私の右隣にダイくん、
左隣にはエスターという、フィドルの女の子が座っていたのだけれど
このエスターがシェイマスの娘だとわかったのは、
セッションも後半になってから。



エスターは見事なアメリカ英語を話していたから、
推察するにシェイマスは、ずいぶん昔に
貧しかったアイルランドを離れてアメリカに移民した
クレア出身のアイルランド人なのだろうと思われます。



そしていま、たぶん家族旅行で、
なつかしい島町を訪れているのではないかと。



もうあと数セットで今夜のセッションはおしまい、
という時間になって
ようやくシェイマスは演奏の輪に入ってきました。



セッション・マスターのオーウィンとクウェンティンから
「1セットだけ一緒に演奏しよう!」と誘われて、
ようやくクウェンティンのフィドルを借りて、
リールを弾き始めたのです。



そしてなんとびっくり、そのシェイマスのフィドルが、
古いスタイルでクレアらしくて、ものすごくカッコいいのでした。





軽やかでにぎやかで、
人々を楽しませるためだけに紡ぎだされる音楽。
音楽が「音楽」なんて排他的なカテゴリーに閉じ込められていない、
なんというかまさに、
古き良きアメリカと古き良きアイルランドが
渾然と溶け合って見事に響きあう曲たち。



がっつーん!と本物を見せられた(聞かせられた)驚き。
うわあやっぱり本物だあ。違うよフィドルの音そのものが。



シェイマス個人のことは、特にはなにも話されませんでした。
でも、あの時代、アメリカに移民していったアイルランド人の多くが
故郷を想って音楽を弾き続けたという話は、
あまりにもなじみがありますから
きっと彼も、そんなフィドル奏者だったんじゃないのかな、
と想像するばかり。




アメリカとアイルランドも、そりゃあ遠くないとはいえないけれど
やっぱり人と人、あるいは人の心の間には
距離を越えて、近く深く行き交うものがあるのだなあ、と。



そんなことを、強く感じた夜でした。